現役保育士の子育て・保育豆知識

「兄弟姉妹で愛情のかけかたに差があったのかな・・・」悩まなくてもOK!

他の兄弟姉妹と比べて、自分だけ親からの愛情が少なかったのではないかと心を痛める人は決して珍しくありません。
新潟青陵大学の教授であり、臨床心理学研究科の大学院でも教鞭をとる碓井真史(うすいまふみ)さんは、新潟市のスクールカウンセラーも務め、社会心理学を専門としています。
碓井さんによれば、「兄弟姉妹というのは、生まれた瞬間から競争関係にある存在」だそうです。
兄弟姉妹間に生じる複雑な感情や対立について、お話をうかがいました。
(※2025年9月7日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

兄弟姉妹の葛藤と親の愛情・・・子どもの心に潜む競争心

兄弟姉妹同士で不公平さを感じるのは、ごく自然なことです。
たとえば長男や長女にとっては、初めは親の関心もおもちゃもすべて自分ひとりのものでした。
しかし、ある日突然弟や妹が生まれることで、それまでの状況が一変し、親の注目が分けられるようになります。
一方、弟や妹にとっては、生まれたときからすでに年上のきょうだいが存在し、母親の膝の上もおもちゃも自分のものにできないという現実に直面します。
こうした環境の中で、きょうだいは自然と「競争相手」として存在することになるのです。
心理学の視点から見ると、これはまさに「親の愛を奪い合う」構図だといえます。
たとえば、弟や妹が「お兄ちゃんのハンバーグの方が大きい」と不満を口にするのは、食べ物の量そのものが問題なのではありません。
「兄の方が大切にされているのではないか」という不安や寂しさが背景にあるのです。
こうした感情は、古くから人間の心に根差したものであり、旧約聖書に登場するカインとアベルの物語にもその一端が描かれています。
きょうだいの間に生まれる嫉妬や葛藤は、時代や文化を超えて見られる普遍的なテーマであると言えるでしょう。

家族の中心にい子、見えにくくなる他の子の心

兄弟姉妹の中に、障害を持っている子や何らかの問題を抱えている子がいる場合、あるいは非常に成績優秀な子がいると、家庭内の関心がその子に集中しやすくなります。
そのような状況では、他の兄弟姉妹が「自分は注目されていないのではないか」「愛されていないのかもしれない」と感じ、不安や孤独感を抱くようになることがあります。
そうした気持ちが内向きに向かえば自信を失いがちになり、外に向かえば怒りとして表出することもあるのです。
また、親自身にも「好み」や期待の方向性があることは否定できません。
たとえばスポーツに力を入れて欲しいと願う親もいれば、芸術や勉学に関心を持ってほしいと思う親もいます。
子どもが親の理想と一致していれば問題は起きにくいですが、期待と異なる行動を取った場合、「どうして外に出ないのか」「なぜ本を読まないのか」といった不満が生まれやすくなります。
そして、きょうだいの中に親と気が合う子とそうでない子がいると、家族の人間関係は次第に複雑化していきます。
「自分は十分に愛されていない」と感じながら育った人は、その想いを長く心に抱え続けることがあります。
そして、大人になってから親の介護や遺産の問題が持ち上がった際に、幼少期の心の傷が再び表面化するという例も少なくないのです。

兄弟姉妹との距離感と親の伝え方、愛は「平等」より「実感」

兄弟姉妹という関係は、必ずしも仲良くしなければならないものではありません。
「仲良くできたらいいな」程度の距離感が、むしろ自然で健全だと言えるでしょう。
人間関係において「こうでなければならない」という考え方は、ときに心を縛り、精神的な負担を生むことがあります。
親の立場から見ても、すべての子どもと同じように接することは難しいものです。
話しやすい子もいれば、なかなか関わる機会が少ない子もいるでしょう。
しかし、それは決して「好き・嫌い」ではなく、単に関わり方の違いがあるだけです。
だからこそ、距離を感じやすい子にも愛情をどう伝えるかが、親としての力量が問われる場面なのだと思います。
私は、「すべての子どもを平等に愛するべきだ」とは考えていません。
なぜなら、子どもは公平さを求めているのではなく、「自分をしっかり見てくれているか」を重視しているからです。
たとえば、子どもが「私とお兄ちゃん、どっちが好き?」とたずねてきたとき、「両方とも大切だよ」と答えるよりも、「あなたが一番大事だよ」と言ってあげる方が、心に届くのではないでしょうか。
あるお母さんは、普段あまり関われていない子どもとの時間を「接待」と表現していました。
2人きりでファミレスに出かけて、「いつも我慢させてごめんね」と声をかけながらチョコレートパフェを注文する、そんな時間を大切にしているそうです。
親の愛情は、どれだけ時間をかけたか、お金を使ったかで測れるものではありません。
ほんの少しの「特別な瞬間」が、子どもの心に深く残り、「自分も大切にされている」と実感することにつながるのだと思います。