東京大学の山口慎太郎教授(労働経済学)らの研究によって、幼児教育の充実が、少年による暴力犯罪の発生率や10代の妊娠率の減少と関係していることが明らかになりました。
(※2025年6月23日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
国の計画が推進した幼児教育の普及と地域格差
幼児教育の充実に関しては、国が1963年に「幼稚園教育振興計画」を策定し、本格的に取り組みを始めました。
この計画では、7年間で人口1万人あたりに1園の幼稚園を設置することを目標としました。
その結果、全国的に幼稚園の数が増加し、多くの地域で在園率も上昇しました。
しかしながら、整備の進み具合にはばらつきが見られ、地域ごとの格差も残る状況となりました。
幼稚園在園率の差からみる幼児教育の長期的影響とは
山口教授らは、幼稚園へ通う子どもの割合が大きく伸びた地域と、あまり変化の見られなかった地域を比較することで、幼児教育が長い年月の中でどのような影響を与えるかを分析しました。
都道府県別(本土復帰前の沖縄を除く)に在園率の伸びが大きかった地域と小さかった地域に分け、幼児教育の広がりが影響を及ぼし始めるとされる1970年代以降について調査を行いました。
具体的には、14~19歳の人口1,000人あたりの少年による暴力犯罪の検挙件数と、15~19歳の女性1,000人あたりの中絶および出産件数(妊娠数)の推移に注目し、両者の違いを比較しました。
幼児教育の効果が10代に与える影響とは
少年による犯罪の傾向を見てみると、幼稚園の在園率が大きく伸びた地域、特に都市部を中心とする上位グループでは、もともとの数値は高かったものの、年を追うごとに大きく減少し、1985年以降には在園率の伸びが小さかった下位グループと同程度の水準になりました。
また、10代の妊娠に関しては、1970年代までは上位・下位の両グループに大きな差はありませんでしたが、1980年以降、その差が顕著になりました。
下位グループでは妊娠件数が急増した一方で、上位グループでは低い水準を維持する傾向が見られました。
この調査結果について、研究チームは、幼児教育には子どもの多動傾向や攻撃的な行動を抑える効果があり、それによって衝動的な行動や問題行動の発生を防ぐ役割を果たしていると分析しています。
幼児教育への投資が社会全体にもたらす恩恵
政府は、幼稚園などの利用料を無償化するなど、幼児教育に対する財政的な支援を強化しています。
山口慎太郎教授は、「国による幼児教育への財政投入は、保護者の経済的負担を軽くするだけでなく、教育の機会均等を実現し、さらには社会全体の安定や発展にも寄与するものです」と述べています。








